「一 人口の増大と農業発展」にある、農業技術についての記述
「改良された繋駕法…馬の場合、この改良によって一〇倍ものエネルギーを引き出すことが可能に」という部分を読んで、頚木の改良のことかなと以前読んだ『馬の世界史』の内容に連想が。中公文庫、本村凌二著の『馬の世界史』に、古代より農耕に使役されていた牛と異なり、馬は使役されることが少なかった理由のひとつとして、馬と農耕具を繋ぐための頚木がうまく設計されていなかった点が挙げられています。
「人間が馬の牽引力を十分に引き出すことができなかったところにある。頭をもたげ肩幅の狭い馬には、頚木が取り付けにくかった。もうひとつの理由に飼料を大量に要することですが、三圃制による穀物増産によって馬のための飼料が確保されるようになったと説明されていました。
…素朴な頚木では、馬の牽引力はほとんど活用されていなかったわけである。首境に引綱を取り付けた新しい頚木が使われるようになったのは、一一世紀頃からである」(7章 ヨーロッパ中世世界と馬より引用。電子版リフロー形式参照のためページ不明)
水車の利用や上述の馬を含む、より効率的なエネルギーの利用、重量犁に代表される鉄製農具や三圃制という農地利用や栽培法の改革などにより大幅な人口の増加が起こりましたが、地域により増加率に差があるのは、未開拓地の割合や利用可能な労働人口などのそれぞれ事情が異なったためでしょうか。
地中海沿岸地域ではもともとある程度開発されていたので伸び率が少なく、エルベ以東では労働力が少なかったとか。などといい加減な推量をしながら読んでいましたが、実際のところを調べるには個別の要素についてきちんと調べないとですね。
「ニ 領主と農民」の領主制用語
土地領主制、裁判領主制、太僕領主制という、領主制の用語について理解が追いつかずいまいちぴんと来ないのですが、上述の用語は「概念的な分類であって、現実の領主が行使する権力はこれらがなんらか入り交じったものである」だそうなので、すんなり入ってこないのも仕方ない部分はあるのかな、と思います。裁判権は王権と直接結びついていたので裁判領主制は発達しなかったというイングランドの特殊性についての記述が目を引きます。
「七 知的状況と知識人」に紹介されたパドヴァのマルシリウス
「こうした世俗統治論は14世紀に入って、立法者たる「市民」によって構成される世俗国家は、神の恩寵に規定されぬ独自の価値・目的を持つと説くパドヴァのマルシリウスにおいて、一層先鋭化するのである」p.29何度も見かけた名前なのに具体的な事跡や理論と関連付けられて頭に入っておらず、己が記憶力・理解力に思わずしょんぼりと。
イタリア都市国家の統治や、マキァヴェッリ政治理論などの関連だったはずという、うっすらとした記憶はありますが…。
ということで参照可能な本から探してみました。
ミネルヴァ書房、服部良久/南川高志/山辺規子編著『大学で学ぶ西洋史―古代・中世』から。
「1314年に国王に選ばれたヴィッテルスバッハ家のルートヴィヒ4世(バイエルン人王)は,そのイタリア統治政策に反対するアヴィニョンの教皇ヨハネス22世により王位を否定され,破門された。
これに対しルートヴィヒは,教皇の世俗支配を否定するパドヴァのマルシリウスやオッカムのウィリアムらの理論的擁護に支えられ,また都市や諸侯など幅広い国内の支持により,逆に教皇廃位を宣言した。」p.305
「教皇ヨハネス22世から異端とされた『平和の擁護者』(1326年)の著者パドヴァのマルシリウスや、同じく危険視されたオッカムのウィリアムも,ルートヴィヒの宮廷に亡命した。
彼らは教皇首位権の神的起源を否認し,信者の全体会議が教皇に優越する権限を持つとする公会議首位説に論拠を提供した。」p.312
「マルシリウスは『平和の擁護者』の中で,イタリアを混乱させている教皇権と帝権との闘争を検討し,教皇権による世俗権威の侵害を秩序混乱の原因と考えた。国家の目的は総体としての人間への奉仕にのみ存じ,その国家を支配する法は神の法と切り離される。ここに教皇の支配権は否定され,皇帝権がこれに優越するという結論が引き出された。
信仰から分離した理性は,教皇権を否定する論理さえも構築しえたのである。」p.321
風行社、鹿子生浩輝著『征服と自由 マキァヴェッリの政治思想とルネサンス・フィレンツェ』から。
「ルッカのプトロマエウスやパドヴァのマルシリウスは一四世紀初頭に、アリストテレスの共和国論を同時代の都市共和国の分析に適用している。しかし、彼らは同時に、世界的君主政の枠組みの中で都市を捉えていた。
…マルシリウスによれば、「国家(regnum)」という言葉は、「その意味の一つにおいては、多数の都市や地方が一つの統治の下に含まれていることを意味する」。彼は、そうした大規模な「国家」には一人支配が適切であるとする一方、都市などの小規模共同体には「貴族制や国制(aristocratia et politia)」といった「よく組織された」統治があるとも論じている。
このようにマルシリウスは、世界レベルでの「国家」と都市レベルでの国家を峻別しており、それぞれに適切な統治形態があると考えている。彼は、教皇の世俗的支配を諸悪の根源として論難するとともに、世界規模の統治については皇帝こそ国王や君主たちの上位者であり、地上の支配者たるべきと主張している」pp.40-41
「八 正統と異端」中の誤植?
「イタリアのアルノルド・ダ・プレッシアとその徒党」とありますが、おそらくブレッシア(北イタリアの都市名)でしょう。プとブ、小さめの文字では見分けがつきにくいので、誤植の中でも多い部類かと思います。同様の例では、ゲッ「ペ」ルスや「パ」ドリオも有名ですね(長らく「パ」ドリオだと思い込んでいました…)。
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