ミネルヴァ書房『西欧中世史 〔上〕継承と創造』読了。中世初期、5~10世紀における諸要素をそれぞれの章の担当者が解説。王権やキリスト教、生産と流通、北欧世界の特徴などの多様なテーマについて、主に社会史的な側面から考察。(続
? wintermute1212 (@wintermute1212) 2015, 10月 7
承前)はしがきにて「本書に教科書、一般教養書、研究入門書という複合的な性格をもたせようとする私たちの企て」とあるが、正直なところ一般教養としては専門性が高すぎて厳しいと思われる。個々のテーマは興味深いものが多く、専門用語に呻吟してでも読む価値はある。(続
? wintermute1212 (@wintermute1212) 2015, 10月 7
承前)特に印象深かったのが8章「識字文化・言語・コミュニケーション」。「ラテン語の歴史的展開を概観するとき、カロリング・ルネサンスという一種の純粋主義を指向した文化運動が、一面においてラテン語の浄化の目的を果たすと同時に、他面においてその民衆的基盤を失う結果をもたらした」(終
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それだけでは何なので、ツイートした以外で印象深かった内容をつらつらと。
9章で紹介された北欧社会についての解説は、ヴィンランド・サガが好きな人はぐっとくるだろう。
環境の制約のために西欧一般にみられるような三圃制・集村・領主による支配と農奴制という、中世というとまず連想される農村生活は成立せず、散村、独立自営農、寄り合いによる社会のルール作り、選挙による王の承認というかなり異なった社会が形作られていた。
もちろん北欧といっても地域によりけりで、デンマークやスウェーデン南部は肥沃な厚い土壌で西欧と同様の農業が成り立ちやすかったが、それ以外のノルウェーや北部スウェーデンでは薄い土壌で集約的農業が行えず、牧畜や漁労の占めるウェイトが高くなった。
不足した物資は他所で補うということで遠征にでることになるが、交易で獲得することはもちろん、それが不可能であれば掠奪はごく普通に行われていた。
掠奪行の方が有名なのでむしろそちらのイメージのほうが強いかもしれないが、ひたすらに富貴を求めて掠奪を行ったわけではなく、不足を補うという動機は見逃せないだろう。
以下ヴィンランド・サガについて若干のネタバレあり
主人公トルフィンが生まれたアイスランドも農業は行えず牧畜や漁労で生計を立てていたが、これは史実どおりの環境。
物語を動かすことになる従士団という組織についても、王などの有力者に直接結びついた人間関係は納得がいくもの。
掠奪行の描写も圧倒的で人間離れしたアクションを除けばだいたいあのような感じだったのだろう。
奴隷として連れて行かれた土地はデンマークで、土地が肥えていたので作中のような大農園は存在しえた模様。奴隷中心ではなく小作人が多かった点もまたおそらく実際のとおり。
漫画的な誇張やストーリ上のお約束をのぞけば、総じてかなりきっちりと調べられたうえでの描写や設定のように思える。
9章は読みながら漫画の場面場面が脳裏に再生されて楽しみながら読めた。ヴィジュアルイメージがあると記憶に残りやすいので、漫画としての純粋な面白さはもちろん、そういう点でも非常にありがたい作品だと思う。
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